Shop
Info

Vol.4-3 Y-Chair 3D trademark ― Yチェアのデザインを守るために ―

『国立新美術館ニュースNo.25』2013年2月号 「研究員レポート 家具デザインの保護と法律―なぜ、Yチェアに立体商標が必要だったのか」より転載

CH社が出願の準備を開始した頃、国内ではインターネット上を中心に、「ジェネリック製品」と銘打たれた、人気家具をコピーした製品の販売が横行していた。この「ジェネリック」とは、販売元いわく、意匠権の期限が過ぎた製品を低価格で市場に提供するという趣旨で生産したもので、意匠権が切れている以上、違法なコピーではないとのことである。しかし、長年に亘ってオリジナル・デザインを守り、技術継承と品質管理、そして営業努力をしてきた正規製造元にとって、そのような意匠権の解釈は決して許容できるものではなく、「ジェネリック」というそれらしい名で呼ぼうが、デザインを勝手に使用した低品質な模倣品に変わりはない。私見になるが、ジェネリック製品の美辞を並べた売り文句からは、デザインの盗用や正規品に遠く及ばない品質といった批判されるべき問題の隠れ蓑に法律用語を用いて、消費者を誘導しようとする悪質な意図すら感じられる。CH社の商標出願は、そういった悪意と戦うための法的武装の試みであり、著作権法や意匠法が定める保護対象の曖昧さを指摘する、一種の問題提起でもあった。

2009年、特許庁はYチェアの商標出願について拒絶査定をし、その査定を不服とした審判においても判断は覆らなかった *42度の拒絶査定を受け、2010年、CH社は知財高裁に審決取消訴訟を起こす。知財高裁においてCH社は、販売実績や広告宣伝活動、雑誌や専門書籍への露出頻度など、Yチェアが世界そして日本で長く知られてきた椅子であるという論証を丁寧に積み重ねた。そして、出願から3年半を費やして、審決取消の判決と、立体商標を獲得するに至った *5

新聞各紙で判決の一報が伝えられて間もなく、インターネット上からYチェアの模倣品が姿を消した。CH社は現在、立体商標権をもとに、税関に対して模倣品の輸入差止申請をしている。模倣品との戦いは、国内での販売の防除から、「日本に入れさせない」という次のステージへ進もうとしている。

家具という実用品の立体商標登録が認められたYチェアの一件は、デザインの権利者にとって朗報と言えるだろう。だが、ベストセラー家具のデザインを守り継承していく道のりは未だ厳しい。立体商標を獲得するには時間と労力を要し、登録が叶ったとしても、その権利を主張できるのは国内に限られる。また、立体商標は完全なコピー品には効力があるが、部分的な模倣にはどこまで通用するのか不確かなのが現状だ。CH社に続く者がいないのも、同じ問題を抱えるメーカーが、まだその法的効力を量っているからだろう。Yチェアの立体商標に、今後も耳目が集中することは想像に難くない。

さて、サロン・ド・テ ロンドに並ぶYチェアはもちろん、CH社が誇りを持って作り続けてきた正規品である。その飽きの来ない優れたデザイン性は、腰かけて触れればなおのこと伝わってくる。世界中でロングセラーとなるデザインには、愛され続ける理由が必ずある。

展覧会鑑賞の後、カフェでお茶を楽しみながら、お尻の下の家具デザインについて考えてみるのも一興かもしれない。

筆:吉澤菜摘(よしざわ なつみ 国立新美術館 アソシエイト・フェロー)

*1 知財高裁 平成23年6月29日判決 平成22年(行ケ)第10253号、第10321号 *2 出願番号:商願2008-11532号 出願日:平成20年2月19日 *3 実用品の立体商標登録が認められた前例としては、マグ・インストルメント社(アメリカ)の「ミニマグライト」などがある。 *4 不服2009-12366号事件(平成21年7月7日審判請求、平成22年6月23日審決) *5 立体商標 第5446392号

※ カール・ハンセン&サンジャパン社 坂本茂氏より、同社の模倣品対策に関する資料、情報および画像の提供を受けた。(注:本記事掲載当時)

----------------------------------------------

 

>>>>> Yチェア商品一覧 へ

>>>>> What is Y-Chair? Top へ戻る

>>>>> 国立新美術館でもYチェアはじめ多くのカール・ハンセン&サン社の商品も体験していただけます。国立新美術館の公式ウェブサイト