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Vol.4-2 Y-Chair 3D trademark ― Yチェアのデザインを守るために ―

『国立新美術館ニュースNo.25』2013年2月号 「研究員レポート 家具デザインの保護と法律なぜ、Yチェアに立体商標が必要だったのか」より転載

国立新美術館2階のカフェ、サロン・ド・テロンド。ガラスウォールから差し込む陽光の下、お茶や軽食を楽しむ人々で賑わうこの場所に並ぶのは、デンマークの家具デザイナー、ハンス・J・ウェグナー(1914-2007年)による「Yチェア」である(右写真)。1950年に発売されたウェグナーの代表作で、誰もが一度は目にしたことがあるだろう、世界的ロングセラーだ。そのデザインは中国明時代の椅子に影響を受けたとされ、水平方向に緩やかにカーヴした一本の曲げ木が、この椅子の外見に無二の個性を与えると同時に、背もたれと肘掛の機能を果たしている。本来の製品名は「CH24」だが、背面の支柱の特徴的な形から「Yチェア」、「ウィッシュボーン・チェア(wishbone=鳥の叉骨)」の呼称で世界中に普及した。

このYチェアが、20116月末、日本の新聞各紙に掲載された。記事の見出しは「Yチェアは立体商標」。知財高裁がYチェアの立体商標登録を認めたことを伝える報道であった *1半世紀以上にわたって世界中で愛され、疑いなく、20世紀の家具デザイン史を代表する一脚であるこの椅子が、なぜ今「立体商標」を得るに至ったのか。その経緯をたどりつつ、名作家具が今日直面する問題に目を向けてみたい。

Yチェアの製造元、カール・ハンセン&サン社(デンマーク、以下CH社)の日本法人が立体商標を特許庁に出願したのは、20082月のこと *2。そもそものきっかけはその前年、国内の業者がYチェアなどデンマーク製家具の模倣品を輸入、販売していると発覚したことにあった。CH社を含むデンマークのメーカー3社は駐日デンマーク大使と連名で該当業者に対して警告書を送付、その後CH社は弁理士の助言を受けながら、訴訟を含めた模倣品対策を検討した。

CH社が実用品での認可例が少ない立体商標の出願に踏み切った背景には、日本には製品のデザインを長期間保護する有効な法律がないという事情がある *3。制作者の権利としてまず挙げられるのは著作権だが、絵画や彫刻などのいわゆる「純粋美術」ではない、大量生産を目的とした実用品のデザインは、著作権法で定義する著作物に当てはまらないというのがこれまでの判例だ。また、意匠法では製品デザインが保護の対象となるが、これに定める意匠権の期間は最長20年。Yチェアのようなロングセラー製品の法的後ろ盾にはなりえない。不正競争防止法に基づいて模倣品業者に対し訴訟を起こす手もあるが、続々と現れる模倣品とのいたちごっこになりかねない。残された道が、登録を更新すれば半永久的に保護される商標、しかも立体形状を登録できる「立体商標」だったわけだ。

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